Vox-y音楽教室のピアノの天野です。前回の「音楽と健康」で好評を頂き、今回再び記事の執筆を担当させて頂きとても嬉しく思います。
さて今回は全く違ったテーマ「オンラインレッスンに限界はあるのか?」という疑問を背景にピアノのタッチ(打鍵の仕方)についてお話しさせて頂きます。
タッチ?
打鍵というと?かも知れませんが、どういう音色を引き出すか、という点で必要となる鍵盤を押す時の力の入れ具合や感触の事です。
ピアノレッスンというとどんな風景を想像しますか?
先生と生徒さんが並んでピアノの前に座っていてマンツーマンで見本と実践を繰り返している様子じゃないでしょうか。
そこでは先生が見本を示すだけでなく言葉で説明している事でしょう。
ではピアノ演奏で何が難しいと思いますか?
- 音とリズムが正確に読める事でしょうか?
- 指を正確に速く動かす事でしょうか?
- 強弱をつけたり音楽的に弾ける事でしょうか?
もちろんどれも難しいですが、上手なピアノ演奏というのはそもそもどんなでしょうか?
ドイツ語の諺で”Ton(Tone) macht(makes) die musik(the music)."というのがあります。日本語に訳すと「音が音楽を作る」です。何となく分かりましたね?
はい、「音」が一番肝心なのです。
どんなにすごい!という技術を見せつけても、無理難曲をミスなく披露しても、それをつくる音一つ一つが美しくなければ人が耳を傾けていたい心地よい音楽には決してならないのです。
そこで、その美しい音をつむぎ出す方法というのが存在するのか?美しい音は天性のものではないのか?と疑問に思われる方もいるでしょう。
答えは、はい、方法は実はあるのです。それがタッチのテクニックです。必ずしも持って生まれた手や感覚だけではないです。
もちろん感性がなければ美しい音を聴き取り、どのようにそれが実現されるかを理解するのは難しいです。ですがピアノのタッチには、どんな角度で、指先をどの方向に、など様々な決まりごとがちゃんとあるのです。
ここで本題に入ります。
これらの本来ならマイスターMaster(達人である先生)が生徒の横について直接生徒の手や腕を取って教え込んできた技術を果たしてオンラインでスクリーン越しに教える事が出来るのでしょうか??
私の個人的な見解ではYes, it is possible!です。
(フレデリック・ショパン 練習曲 作品10から 11番 アルペッジョ)
①上のように、まず見本となる演奏をまず聴かせる。
②手元とひじから先が映る様にカメラを設置し、口で説明しながらゆっくりの動作を
やってみせる。
悪いVersionをやってみせて響きが悪い事を聴きとらせる事も必要です。
その後良いVersionを見せて何がここではより良いのか説明も必要。
③生徒に実践させる。
もちろんアナログ録音の方が私たちが利用している今日のデジタル録音よりも音質を伝えるのは楽だったと思います。でもどちらも結局は実物を伝えるための録音です。
この①~③のプロセスをシステマティックに繰り返す事は先生側の重要な課題となるでしょう。機械ごしでもきっと生徒さんは聴きとれるようになり説明の通りに実践し理解できることでしょう。
しかしここで生徒さん側にも先生を信頼して着いていく敬意と素直さ、が必要不可欠となります。楽器を学ぶ世界では武道と同じように、何だか分からないけど自分の想像も出来ない高度な深い世界が広がっているのだ、という事を認める素直さと謙虚さが必要になってきます。
それをさらにスクリーンごしで学ぶにはもっと忍耐が強いられるかも知れません。
これが私たち一人一人の音楽家に今強いられている新たなレッスン方法ですね。
頑張ってより良いオンラインレッスン法の改善に努めて参りますので、一緒にお勉強してみませんか?
次回の記事では、いよいよピアノ界の至宝「ショパン練習曲」の解説を取り上げたいと思います。楽しみにして下さると嬉しいです。
執筆者 天野泉(ピアニスト)オーストリア、ザルツブルクを拠点にソロリサイタルで活躍。2019年ミラベル宮殿モーツァルトコンサートシリーズ演奏家。”魔法””ダイヤモンドハンド”と騒がれた彼女の奏法はドイツロマンティック時代から遷ろうことなく継承されたヨーロッパ伝統ピアノ奏法。
現在、Vox-y音楽教室にてピアノレッスンコースを勤めている。